羽もそして消えてゆく

空港へ向かうバスに乗っているとき、
寝不足のせいなのか、後頭部の首の付け根あたりがずっしりと重い。
なんだろうなあ、と思いながらフォーカシングをしてみた。
左側の背中には、黒い蝙蝠のような羽が生えている。
右側の背中には、白い鳥のような羽が生えている。
端的にいえば、悪魔と天使のそれである。
それぞれの翼は、翼としては完ぺきなのに、
違うものがついているために羽ばたいても飛ぶことができない。
どうしよう、と思ったときに
「もっとよいアイデアを思いつくことだ」
というような考えが、ふと胸に浮かぶ。
すると、左側には蝙蝠の羽をもった人、右側には鳥の羽をもった人が立ち、
私のそれぞれの羽を掴んで引っ張ると
真中から切れ目が入って裂けた。
その裂け目から、おかっぱの少女のような、トンボの羽をもった人が現れる。
歩みを進める場所はコンサートのステージのような場所で、
観客席には、人の姿だけではない様々なものが、ひしめいて、待ち構えている。
ステージに歩みだすと、左目の視界に炎のようなものが目に入る。
首だけで振り返ると、左の羽にアルコールランプで見られるような青いような紫色の炎が付いている。
熱さも、痛みもなく何も感じないが、どんどん炎がついて羽が空気の中へ消えてゆく。
一瞬、恐怖のようなものが脳裏をかすめて、左腕で払うようなしぐさをすると、
左肘に、左羽に着いた炎が引火して、燃え始める。
自分が消えてゆくんだ、という突然言葉が心に現れる。
私は消えてゆく、しかし、私はある。
私はあるんだ。
空気とともに消えてゆく中で、
「私は、あるんだ」
という思いが強い確信として立ち上がる。
消えてゆくのに、ある。
見えるか見えないかじゃないんだ、あるんだ。
あるかないかなんだ、と。


空から、直径1cmぐらいの真珠が、光を放って私に向かって落ちてきた。
思わず手を出すと、真珠の光の影で、透明な私がうっすらと現れた。
宙に浮く真珠を人差し指と親指で触ったら
「あぢっ」
すごい熱かった・・・。
真珠はそのまま、空中に浮いていた。
可笑しくて、笑った。
なんだか真珠に笑われたような気がして、笑った。
でも、触っちゃうんだよなぁ、美しいものって。
やけどするとわかってるときも。