お初、嫁に行く

前世が変わったという話をしたが
それは、この前世の内容
 
朝起きて、モーニング・ページをやって
その合間に何か急にゴロゴロしたくなり、
蒲団の上でぼんやりしていたら、そのイメージがやってきた。
 
それは、玄関に大旦那様が座り、木の戸の後ろに隠れて話を聞いているところだ。
大旦那様が、玄関の土の上に正座するセイザブロウに私の過去を話し終わったところのようだった。
その時、頭の中に「神埼誠三郎」という文字が浮かぶ。
おお、そういう字なのか?
 
誠三郎はのろのろと立ち上がり、袴についた土を
機械的に二回、ぱ、ぱ、とはたき、
おそらく浅い会釈を一度して、
「御免」と言い、ふらりと出て行った。
 
私は、戸の後ろで血管が切れそうになっていた。
両手のこぶしを握り締めて、ぶるぶる震えていた。
私の左横には、私と同じ年頃で働いている女性がいて、
どうしたらいいのか分からない感じで座っている。
私の方は、怒りとも悲しみともつかない感情がぐらぐら煮立ったようになり、
噴出しそうになっていた。
目を剥いて、瞬きもできない。
全身に物凄い力が入っていた。
頭をかきむしって叫びだしそうだ、気が触れる!と感じた時には、
私は玄関を飛び出していた。
後ろで、「お初っちゃん!」と女性のものと
大旦那様があわてたように「おい」といった声がした。
振り返らなかった。
 
通りを行くと、すぐ誠三郎が前に居た。
魂が抜けたような、風に揺れるような歩き方をしている。
「誠三郎様」
と呼びかけると、物凄くゆっくりとこちらを振り向いた。
今にも倒れそうな、真っ白な顔色をしており、幽霊のようだった。
見えないものに呼びかけられて、見えないものを見ているようだった。
私は、どうか私の話を聞いてください、と叫ぶように言った。
通りの人々は、みな、こちらをちらり、ちらりと見ながらと過ぎていく。
気恥ずかしさもあったが、そんなこと言ってられない。
「大旦那様のお話は本当です、でもみんな、死んでしまったんです」
と早口で言った。
「お去りになるなら、私の話を聞いてからでも遅くはないはずです」
私は、必死だった。
酷い女であることは変わりはないかもしれない、
けれど、誠三郎に騙されたと思われたくはなかった。
「お慕いしているのです」といった。
顔から火が出そうだった。
顔をあげていられなくて、俯いた時、
自分が裸足であることに、気がついた。
誠三郎が、近づいてきて、私の背に右手を一瞬、そっとあてた。
「話を聞こう、お初」といったその顔は、いつもの誠三郎の顔だった。
 
通りの裏にある川原に行き、座って話をした。
お初の夫は薬売りであったらしい。
その留守中に、飢饉になり、一人息子を亡くしたようだ。
「かあちゃん」という息子の手を取って、泣きそうになっている姿が浮かんだ。
夫は、息子が死んだ後になっても帰ってこず、山の中で死んだらしい、という噂が聞こえてきた。
結局、いつも帰ってくる季節になっても夫は戻らず、大切な息子を死なせてしまって、家に一人暮らすことが耐えきれなくなっていた。
もう自分も死んでしまおうか、と思っていた頃、薬売りの仕事なら食っていけるぞ、という話を仲間に聞いた。
一通りの薬の知識があったらしく、私はそのおかげで文字も読めたし、計算もできたようだ。
富山のあたりから長岡に行き、資金がたまったあたりで江戸につてを頼ってきたという話をしていた。
この話からすると、私はどうも誠三郎より年がいくつか上のようだ。
河原の草の上に座って、私は裸足の自分の足を擦り合わせていた。
誠三郎が話を聞きながら私の足を見ているので、なんとなく恥ずかしかったからだ。
私が話し終えると、私の左手を、ギュウと握りしめ、
「わかった、わかったぞ」
と言った。
涙が出そうだった。
後ろから、店の女性の声がした。
下駄をもって、呼びに来てくれたらしい。
 
結局、祝言を挙げたようだった。
色々大変なこともあったようだが、幸せだったようだ。
「すべての幸せは誠三郎様のおかげだ」という思いがあったようだった。
女の子を産んで、孫もできたようだった。
小さな庭で、孫と追いかけっこをしたりして、
ああ、なんてありがたい、と感じていた。
 
 
えーと。
嫁に行ってしまいました・・・。
なんだ、前世って変わるのか。
どうなってんじゃ、これ。
 
あと、お初の話、また書いたらパソコンがエラーになって一度ぶっ飛んだんですけど/汗。
やめてほしい〜、どうせ書くのだし/笑。