墜落

フォーカシングです。
フォーカシングしろと身体が言っているような気がして、した。


目の前は、雲でいっぱいの空中だった。
手を動かそうとすると、掌が前に出せなかった。
私の前、ぎりぎり顔がつかないぐらいの前に、ガラスの壁があるのが分かった。
後ろもガラスの壁だ。
辛うじて肘が曲げられるぐらいの隙間にいるようだった。
私の左右はそのガラスの隙間が続いているようだった。
上はどのくらいの高さまでかは分からないが、
乗り越えられないぐらいはあるようだ。
というか、足元もガラスで、まるで空中に浮いているかのようだった。
私は、うすい風で揺れるような生地でできたスカートとパンプスという格好らしい。
左を見ると、志村正彦がいた。
なんとも言えない表情、というか無表情。
右手を私に伸ばしてくるので、私は左手を伸ばした。
もう少しで手を掴めそう、というところで、志村の身体が膨張し始めた。
どんどん膨張して、ガラスの通路から動けないようだった。
志村の中指が、私の手を掠った。
爪の形、指を見た。
私がそちらの方へ踏み出そうとした時、左を向いた私の右耳に、
ビキッという音が聞こえた。
右側のガラスに縦に亀裂が入り、それに誘引されて回廊がそこから割れた。
そして、志村のいた方の回廊が、落下した。
手を掴むことはできなかった。志村は何も言わなかった。
地上が見えないほど高いのか、雲の間を墜落していく志村がまだ見えた。
私は胸のあたりに強く圧迫されるような痛みを感じた。
その時、肩甲骨あたりにつり上げられるような感触を感じた。
背中に羽が二枚生えていた。
そして、水中にいるときのように身体が強制的に浮上する感覚を感じた。
落ちてゆく姿に、何もすることができないのに、
私は浮力で上がって行こうとしている。
「こんなの嫌!いや〜〜!」と言って、浮上しないようにともがいた。
私はどこかで、「変化に抵抗するなんて、無意味だ」という意識もあった。
けれど、墜落してゆく志村を見ると、とても抵抗しないではいられなかった。


そのとき、どこかから柔らかい女性の声がした。
「墜落しているのは、どっち?」とその声は私に言った。
は、と気がついて私は胸を突かれるような思いになった。
「あなたが座標をきめているのでは?本当に、彼は墜落したの?
それとも、あなたが落ちているの?そもそも、落ちているのは本当のこと?」
と声は私に話しかけた。
「ただ、道が分かれただけでは?あなたは何を見ている?」
私は抵抗をやめた。
というか、力が抜け落ちたようだった。
浮上が止まった。
周りを見ると、先程のガラスの回廊がものすごく長く続いていて、らせん状になっていた。
回廊にはたくさんの人が私と同じように挟まっていて、
みんなが、自分だけ挟まっていると思っているようだった。
私はそれを、眺めた。
風にスカートが揺れて、私、パンツ丸見えだよ、と思った。
でも誰も、上なんて見ていない。



私はどこに?
胸の痛みだけが、残っている。
その痛みが、灯台のように強い金色の光を放っている。
胸に手を当てて、私は宙に浮いている。




うーむ・・・。
ここ2日ぐらい、夢にも志村が出てくるしなぁ。
でも、死を示唆する内容ばっかりだよ。
受容のプロセスなのか?