溜め込んだ時計、テス

何かむにゃむにゃした気分なので、フォーカシングした。


何か言いたいことがあったらよろしくお願いします!
と行ったら、向こうから
「はーい!」と言って笑顔で走ってくる人がいる。
ウッ、なんだこいつ。
身長は175cmぐらいはあるんじゃないだろうか。
お尻ぐらいまで長い黒髪で、前髪を眉あたりで切りそろえている。
白いシャツにジーパンである。
向こうにいるときは女性のようである。
走ってくると、がばーっと私に抱きついた。
大型犬をあやすように、「よーし、よーし」と言っている。
うーん・・・犬じゃないっすよ。
「ここまで来たねぇ」と言っている。
ここまで生きてきたねぇ、という意味の様子だ。
抱きつかれているときに、テス、という言葉が浮かび、テス?と聞くと
「あ、なんでもいい。それでいい」というので、テスと呼ぶことにする。
テスは返事がよい。
呼びかけると「はーい」と機嫌良く返事をする。
「じゃあ、仕事しますんで」といって、ガラスのような短剣を取り出した。
女性の姿から、男性っぽい骨格になっている。
私をでかいクマのぬいぐるみをでするように向かい合って抱っこして座ると、
背中をその短剣で切り開いた。
それで、開口部を両手で広げて、それを下に向けて振ると、
目覚まし時計のような時計がいくつも、ガシャンガシャンと言って床に落ちる。
「これは、今まで使ってきた思い込みの概念だよ。締切とかね、期限とか」
結構アンティークのような、いいデザインの時計もある。
「見た目が良くて、棄てられなかったんだね。こういうのが、毒だから」
さらに、背中に手を突っ込んでさぐっている。残っているものがあるようだ。
「気をつけないと新しいものがどんどんできるし、自分で捨てるという気概が必要なんだよ。あー、今は全部は取れないなぁ」
といって、何かをつかんでぐいぐい引っ張っているのが分かるが、外れない。
それはきっと、春までにどうにかしたいというアレじゃないでしょうか/汗。
「あってもなくても同じだよ!人間は一つの道しか通れないストーリーを生きているんだ」と、ちょっと腹を立てているようす。
「システムが違うからね、もどかしいなぁ」
しかし人の内臓まさぐるなんてちょっと乱暴な奴・・・。
「ここでアクセスしている肉体は概念だよ!わかってんの」
そうっすか。
今は、全部の時計は捨てきれないらしい。
「まあ、全部捨てることはないよ。でも、人を生きるのにいるのは一つくらいなものだよ」
で、そのひとつがないと人でいられないというのも思い込みかしら
「そうだね」
落ちている時計を一つ拾うと、大泣きしている子供とかたい無表情の子供がセル画を重ねたようなイメージで浮かぶ。ディズニーランドのようなところにいる。
迷子になって、親が迎えに来なかったら終わりだ、と思っている幼い自分で、大泣きしているのは心の中の自分、無表情なのは実際の行動のようだった。
床に投げ捨てると、子供時代にお世話になった目覚まし時計の音楽が鳴って、音が歪んでから止まった。




腰のあたりにモヤモヤがあるので、それにフォーカシングしようとしたら
そのもやもやの中から、テスが「はーーーい!」と言って出てきた。
いや、もやもやをどうにかしたいんだ、と思って腰を見ると
生まれたばかりの犬の子供がくっついている。
テスは片手でそれを取り上げると、
縦半分に切って裏返し、
袋を絞るようにして中身を床に落とし、
外側を縦長い棒のようにしてくるくる丸める。
棒は春巻きのようになり、テスがそれを食べるとパリパリ音がした。
床に落としたものの方は手でかき集めて両手に乗せ、
床にあいている穴にそっと入れると、
天上からつり下がっている鎖を引っ張った。
引っ張ると、トイレのような「ジャー」という音がした。
「はい、これで第一回おしまいです」とテスが言う。
また、腰を見ると、また犬がくっついている。
今度は牛柄のようなぶちが入った犬で、さっきよりは成長した子イヌだ。
私はなぜか、黒っぽい中世のヨーロッパみたいなドレスを着て、でかい帽子をかぶっている。
そのまま白いビーズクッションのようなものの上にごろりと横になると、
テスがまた犬を取って、同じようにして食べ、穴に中身を落とし、流した。
テスが食べると、私も味が分かり、揚げ春巻きの味がした。
「なにやってるか、わかってる?」と聞かれたので、
何だかわからなかったが、掃除?というと
「あと、次への準備。もっと深く潜って読み取ってくださいよ」といわれる。





また変な奴出てきた。
「僕は本物です」って言うから、アブナイ奴だ。
テスは性別がころころ変わる。
なんだろう、私の性別的なアイデンティティがまだ確固たるものになっていないってことか?
30歳にもなって思春期じゃないんだから・・・って、これも時計かー。